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東京地方裁判所 平成11年(ワ)26929号 判決 2000年7月26日

原告

徳栄興産株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

馬場恒雄

田中史郎

吉能平

被告

日本電信電話株式会社(以下「被告日本電信電話」という。)

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

本間崇

牧野知彦

右訴訟復代理人弁護士

田中成志

被告

株式会社トーキン(以下「被告トーキン」という。)

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

松本重敏

美勢克彦

秋山佳胤

右補佐人弁理士

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金六三億円及びこれに対する被告日本電信電話は平成一一年一二月一六日から、被告トーキンは同月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告らに対し、被告らのテレホンカードの製造販売行為が原告の有していた実用新案権(共有持分権)を侵害(被告トーキンについては間接侵害)したとして、売上相当額の不当利得金の返還を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)

1  原告の権利

原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)について、存続期間満了の平成一一年九月五日まで、その二分の一の共有持分権を有していた。

(一) 考案の名称 テレホンカード

(二) 出願日 昭和五九年九月五日

(三) 登録日 平成七年四月二〇日

(四) 登録番号 第二〇五八一〇四号

(五) 実用新案登録請求の範囲

電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、テレホンカード。

2  本件考案の構成要件

本件考案を構成要件に分説すると、次のとおりである。

(一) 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、

(二) 該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、

(三) 該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、

(四) テレホンカード。

3  被告らの行為

被告日本電信電話は、カード式の電話機に用いるため、4記載の構成を備えるカード式公衆電話機専用のテレホンカード(以下「被告物件」という。)を製造、販売している。

被告トーキンは、被告日本電信電話の仕様に基づき、テレホンカード用の磁気カード(磁気情報が書き込まれていないもの)を製造し、被告日本電信電話に販売している。

4  被告物件の構成

被告物件の構成は以下のとおりである。

カード式公衆電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードで、縦の辺が横の辺に比して短い長方形であって、表裏ともに一様に平坦で、その一短辺には、その中央から一側に偏った位置に、一つあるいは二つの半月状の切欠部が形成されており、この切欠部に手、指で触れることにより、カードの表裏及び差込方向の確認をすることができるもので、この内、使用度数が五〇度数のものは切欠部が二個あり、使用度数一〇五度数のものは切欠部が一個ある(丙一三、なお、枝番号は省略する。以下同じ)。

二  主要な争点

1  構成要件(三)の充足性

(原告の主張)

被告物件は、本件考案の構成要件(三)を充足する。

本件実用新案登録請求の範囲には、「該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする」と記載されているが、「押圧して形成されたへこみ部」に関しては、押圧位置、押圧力の強度、押圧方向、へこみ部の形成手順等について何ら限定されていない。したがって、「へこみ部」には、カード本体の表面だけでなく、側面や端面に水平方向にへこんだ部分を含む。確かに、実用新案出願公告公報には本件考案の実施例として、カードの平面に対して押圧力を垂直方向に加えてへこみ部をカード本体の表面に形成した図面のみが記載されているが、本件考案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲に基づいて定められるべきであって、実施例の一つのみを参酌して限定されるべきではない。

出願人は、出願過程において、出願当初明細書に記載されている実施例の第一図(切欠部を設けたもの)を削除したが、その意図は、カード本体の側面と端面の二辺にわたって切欠部が形成されている実施例を除外する趣旨から削除したものであって、切欠部が一辺にのみ形成されているものを除外する趣旨から削除したものではない。また、出願人は、本件考案にいう「押形部」と「単に後に切り離し可能なように切り取り線が設けられた」「二辺に跨る切り離し」(乙六、丙五)とは構成が異なるという点を指摘したことはあるが、「へこみ部」が一辺に形成されたものが、本件考案にいう「押形部」と異なると指摘したことはない。

構成要件(三)における「押形部」は、押圧することによって形成した部分、すなわち、プレス加工によって、カード本体の一表面に形成したへこみ部を指すと解するのが相当である。

被告物件の「切欠部」は、製造時の打ち抜きにより、カード本体の側面を水平方向にへこませた形状に形成されたものであるから、構成要件(三)における「カード枠体を押圧して形成されたへこみ部」に該当する。

したがって、被告物件は、本件考案の構成要件(三)を充足する。

(被告らの反論)

被告物件における「切欠部」は、以下のとおりの理由から、本件考案の構成要件(三)における「カード枠体を押圧して形成されたへこみ部」に該当しない。

本件考案の出願当初明細書における実用新案登録請求の範囲には、「切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていた。ところが、その後、出願人は、明細書を全文訂正し、第1図、第2図及びそれらに関する一切の記載を明細書から削除し、その結果、実用新案登録請求の範囲の記載を「ーーーカード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とするーーー」とした。以上の出願経緯に照らすと、構成要件(三)における「カード枠体を押圧して形成されたへこみ部」は、「切欠部」を含まないものと解するのが相当である。

他方、被告物件においては、カードの一端面の一部を打ち抜いて、半月状に切除して「切欠部」を形成したものであるから、「押圧して形成」したものとはいえない。したがって、被告物件は、本件考案の構成要件(三)を充足しない。

(主張の詳細は、被告日本電信電話の答弁書の「第二 被告日本電信電話の主張」及び被告トーキンの答弁書の「第三 被告の主張」記載のとおりである。)

2  本件実用新案権の無効事由の有無

(被告トーキンの主張)

本件実用新案権は、明らかな無効事由があるため、このような実用新案権に基づく原告の請求は権利濫用に当たり許されない。

すなわち、本件考案が従来技術と構成において同一なものが存在するにもかかわらず登録を認められるためには、従来技術にはなかったテレホンカードに用いられるという点で新規性あるいは進歩性が認められる必要がある。しかし、テレホンカードはいわゆる磁気カードの一つであり、細いスリットに差し込んで使用し、その表裏、差込方向が問題となるという点において、他の磁気カードから独立して特別に保護を与えるべきではない。その意味で、従来技術をテレホンカードに適用することは当業者が容易に想到することができるものとして、進歩性を欠き無効である。このような無効な実用新案権に基づく原告の請求は権利濫用である。

(原告の反論)

先願に係る実用新案の明細書(丙一二号証)は点字カードが凸状であることを構成要素とし、本件考案は凹(へこみ)状であることを構成要素とするものであって、その構成は全く異なる。本件出願当時、テレホンカード本体に凹状である「押形部」、「へこみ部」をつけて、「指示部」とする考案は従来技術としては存在せず、本件考案は実用新案権を付与するに十分なものであった。

3  不当利得の成否及び額

(原告の主張)

被告らは、原告の有する本件考案の技術的範囲に属する被告物件を、原告の使用許諾を受けることなく、製造、販売し続けていた。

被告らは、少なくとも、本件実用新案権の公告日である平成五年六月二四日以降、本件実用新案権の存続期間の満了した平成一一年九月五日まで、年間二億枚以上の被告物件を製造、販売し、その売上高は少なくとも年間一四〇〇億円以上に及んでいる。本件実用新案権の実施料相当額は売上高の三パーセント(共有持分権につき、その二分の一に相当する一・五パーセント)が相当であるので、年間二一億円を不当に利得している。本件実用新案権の公告日である平成五年六月二四日から本件実用新案権の存続期間が満了した平成一一年九月五日までの六年分の利得額は一二六億円になる。

原告は、被告らに対し、このうち、一部である金六三億円を不当利得返還請求する。

(被告らの反論)

原告の主張は争う。

(被告トーキンの反論)

被告トーキンは、テレホンカード用の磁気カード(磁気情報が記録されていないもの。)を製造、販売しているので、同被告に被告物件の売上高を基準とした実施料相当額の不当利得が成立する余地はない。

原告が本件実用新案権の共有持分権の移転を登録したのは平成七年七月二四日であるから、それ以前の期間についての権利主張はそれ自体失当である。

第三争点に対する判断

一  被告物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かを判断するに当たり、まず、構成要件(三)の充足性について検討する。

1  構成要件(三)の解釈について

(一) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の構成要件(三)に係る部分は、「該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、」と記載されている。

右「カード枠体を押圧して形成され」る「へこみ部」の意義は、以下のとおりに解すべきである。

まず、「実用新案登録請求の範囲」欄の記載を、用語の通常の意味に即して解すると、「カード枠体を押圧して」「へこみ部」を「形成」するとは、カード状に切り取られたものを素材として、その一部に凹みを生ずるに足りる押圧を掛けることにより、へこみを有するように変形させることを意味することは明らかである。したがって、カード状に切り取られる前のシート状材料からカードを製造する際に、同時に辺の一部をも切り離すことによって、切欠部を備えたカードを製造することは含まないものと解される。

のみならず、出願当時の公知技術の状況、出願の客観的経緯及び出願人の陳述内容に照らすならば、「カード枠体を押圧して形成され」る「へこみ部」は、カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるために該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを除外していると解すべきであることは、より一層明らかである。

以下、出願の経緯について、補足して、詳細に述べる。

(二) 乙一ないし七、丙一ないし七及び弁論の全趣旨によれば、本件考案に係る出願経緯は、以下のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。

(1) 本件考案の出願当初明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄には、「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と記載され、「考案の詳細な説明」欄において、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていた。

(2) 右出願に対して、平成二年八月八日付けで、以下のとおりの拒絶理由通知が発せられた。すなわち、「この出願の考案は、その出願前国内において頒布された下記の刊行物に記載された考案に基いて、その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、きわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。」とされ、引用例として、「実願昭五六―四八三六八号(実開昭五七―一六一一三一号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム」が示された。

(3) 出願人は、平成二年一一月一三日、「意見書に代える手続補正書」を提出し、その中で明細書を全文訂正し、図面中、第1図、第2図を削除し、第3図とあるのを第1図と訂正した。その結果、訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載は、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」とされ、また、「考案の詳細な説明」欄において、第1図、第2図に関する記載が削除された。

(4) 右出願は、平成三年四月二日付けで、拒絶査定を受けた。なお、右拒絶査定謄本の備考欄で、「方向の指示のための表示を行う事は磁気カードの分野では従来周知の技術である(特開昭五五―四三六六九号公報参照)」と指摘された。

(5) これに対して、出願人は、平成三年五月二三日付け審判請求書を提出し、拒絶査定の取消を求めた。出願人は、その理由として、「本願考案は、ーーー特に『カードの差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード』を必須の要件としております。これに対し、上述の拒絶理由通知書において引用された実開昭五七―一六一一三一号および拒絶査定謄本において引用された上述の特開昭五五―四三六六九号公報のいずれにも本願考案の上述の必須要件、とりわけ、押形部について開示しておりません。これら引用例に記載された考案はいずれも磁気カードやキャッシカードに係るものであるのに対し、本願考案はテレホンカードに係るものであり、両者はその技術分野を全く異にします。ーーー又、本願考案の指示部は押形部から成っております。これは上述の引用例の切除部や矢印と違って、目の悪い人でも差込方向を容易に感知できるという利点を有します。」と述べた。

(6) 右出願について、平成五年六月二四日、実用新案登録出願公告がされ、その後、実用新案登録異議申立がされた。

出願人は、平成六年五月二四日、明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載を「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、テレホンカード。」と補正した。

さらに、出願人は、実用新案登録異議答弁書において、以下のとおり述べた。すなわち、

① 「押形部がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る」という補正は、「押形部」という言葉の社会通念上の意味、即ち、押圧して形づくられた部分という意味並びに本願の図面の記載に照らし、「押形部」を更に明確に限定したものである。

② 甲第一号証(実開昭五七―一六一一三一号、以下「第一引用例」という。)には、磁気カードに切除部を設け、この切除部が切取線によりカードから切離しやすくするように構成されていることを開示しております。ーーー本願考案と甲第一号証(第一引用例)の考案とを比較すると、両者は磁気カードの電話機への挿入方向(裏返しあるいは上下返転)の正誤検出を目的とする点で共通しますが、本願考案がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る押形部の指示部をカード本体に設けたのに対し、甲第一号証(第一引用例)の指示部が切除部即ち、カード本体から切離してしまう部分としている点で両者は構成を全く異にします。

③ 甲第二号証(実開昭五五―二三五七四号公報、以下「第二引用例」という。)ではカセットテープ用ケースの片面に突起体又は凹部を設けてケースの表裏識別を可能ならしめており、これら突起体や凹部をインジェクションモールドや熱を加えて形成することが開示されております。従って、この甲第二号証(第二引用例)には、本願考案におけるカード本体の一部を押圧してへこませた押形部の構成を全く開示されてなく、又この本願考案における押形部の構成は甲第二号証(第二引用例)に記載されたカセットテープ用ケースの凹部又は突起体と全く異なります。ーーー上述から、甲第一号証の考案(第一引用例)と甲第二号証の考案(第二引用例)とを組み合わせた考案(以下組合せ考案という)は、甲第一号証(第一引用例)の切除部に替えて、甲第一号証(第一引用例)の磁気カードに、甲第二号証(第二引用例)の凹部等をインジェクションモールドや熱により形成するということになります。してみれば、本願考案は、テレホンカードの一部に、このカード本体の一部を押圧してへこませた押形部を設けたものであって、上述の組合せ考案とはその構成を全く異にすることになります。

(7) 本件考案は、右のとおりの手続を経て、平成七年四月二〇日、実用新案登録がされた。

(三) 右認定した本件考案の出願の経緯に照らすと、「実用新案登録請求の範囲」の構成要件(三)に係る部分は、以下のとおり、カード表面から押圧を掛けて、へこみを有するように変形させて、「へこみ部」を形成するものに限定され、カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるため、該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを含まないと解すべきであるのは明らかである。すなわち、

(1) 出願当初明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄には、「切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され、「考案の詳細な説明」欄には、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていたにもかかわらず、その後、出願人は、明細書の全文を訂正し、「実用新案登録請求の範囲」欄から「切欠部」「穴部」の記載を削除し、「押形部」の記載のみを残し、「考案の詳細な説明」欄から第1図、第2図及びそれらに関する一切の記載を削除し、第3図に関する記載のみ残した。右「押形部」を削除された「穴部」と対比すると、前者は、カード表面から押圧を掛けて、へこみを設けるものであるの対し、後者は、カード平面の一部に貫通孔を設けるものである点で、相違することが明らかである。

(2) また、出願人は、実用新案登録異議答弁書の中で、①本件考案は、「カード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る押形部の指示部をカード本体に設けている」点で、「カード本体から切離してしまう指示部を設けている」第一引用例とは構成を異にする旨を、また、②本件考案は、「このカード本体の一部を押圧してへこませた押形部を設けている点」において、「インジェクションモールドや熱により凹部を形成している第二引用例」と構成を異にする旨を、それぞれ述べている。

2  被告物件の構成及び構成要件(三)との対比

被告物件は、表裏ともに一様に平坦で、その一短辺には、その中央から一側に偏った位置に、一つあるいは二つの半月状に形成される「切欠部」を備えており、「切欠部」は、製造工程上、カード状に切り離される際、同時に切り離されて形成されたものであることが明らかである(検乙一、弁論の全趣旨)。

他方、本件考案の構成要件(三)は、前記のとおり、カード表面から押圧を掛けて、へこみを有するように変形させて、「へこみ部」を形成するものに限定され、カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるため、該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを含まないと解すべきである。

したがって、被告物件は、本件考案の構成要件(三)を充足しない。

二  以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は、いずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)

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